【Replicareダウンロード数300記念】
ある日の久世が所有する地下研究所。被験体№H064は食堂とプレートを掲げた場所に呼び出された。案内をしてくれた、肩につくか否かの長さの白髪に黒曜の虹彩をもち静寂を浮かべた中性的な美貌が儚い印象を与える白衣を纏った青年に礼を伝えてからドアを開けると、美味しそうなカレーの匂いが鼻をくすぐる。ドアを開けると美味しそうなカレーの匂いが鼻をくすぐる。
「あ。お待ちしておりました、№H064」
そう言ったのは案内をしてくれた青年と同じ顔をもつK‐01868。顔馴染みの所為か今まで見てきたどの白髪の青年よりも表情が柔らかい。
「11月11日にReplicareのダウンロード数が300を達成したそうです」
「まさかまた君の複製を同じ数増やした……とか言わないよな?」
「ふふ……。もう匂いでお気づきかと思いますが、今回は貴方が大好きなカレーうどんを同じ数だけ用意しました」
テーブルというテーブルに並ぶ白いどんぶりに盛られたカレーうどんを見渡し満足そうに微笑み、言葉が続く。
「此処はちょうど300名を収容できます」
「300食も君が作ったのか?」
「いいえ。僕ではありません。調理をした者は匿名希望ということなので、僕が言えるのは、僕ではないけれど僕の複製の誰かが作った、ということだけです」
「そっか。君の複製は他にも居るんだったな」
「はい」
「呼び出された時は何事かと思ったけど、美味しそうなカレーうどんを見てほっとしたよ。前々回と前回は散々な目に遭ったからな……」
「100と200達成記念は2人きりで祝いましたので、今回は盛大に祝おうかと思いまして。紅白で目出度かったですね」
「どこがだっ!!」
「沢山の白い僕が貴方の手で赤く染まって、目出度い配色でしたよ」
「そういう問題じゃないだろ……」
「そうですか? 僕は楽しかったですよ。彼等の真似ができて」
「そう言えば、二人はどうなったんだ?」
「№H064は今も箱庭で元気に暮らしています。去年結婚して二児の父だそうです。あの時の僕は別のKナンバーと新しいプロジェクトに取り組んでます」
「……そっか」
№H064が複雑な心境を言葉にするには圧倒的に語彙と文章力が足りず、マリアナ海溝ほどの深さのある溜息が静かに漏れた。
「さぁ、№H064。冷めないうちに召しあがってください」
「え、盛大に祝うって他にも人が来るのではなく?」
「盛大にカレーを飛ばして構いません。廊下ほど白くないですけど」
「どうやら盛大の規模の認識が君と俺で違うらしい」
「そうですか」
「君は食べないのか?」
「え? 僕に食べろと?」
「一緒に食べよう。最近の洗剤は優秀なんだろ?」
「……はい。では、お言葉に甘えて」
二人は並んで席に座りカレーうどんを美味しそうに啜りながら食べ始める。鼻に届くスパイシーな香り。ドプッとしたカレーに埋めた箸先で持ち上げたうどんは掴んだ弾力からしてコシがあり、噛み応えがありそうだ。うどんとカレーをよく絡めてから箸先を口へと運ぶ。人肌よりも高い熱が口内を満たし、味蕾の上に目が覚めるようなスパイスの刺激が広がり鼻へと抜けていく。カレーの中に香る絶妙な分量の出汁はカツオを中心とした旨味が凝縮されており癖になる。カレーのズズズッとうどんを啜ると黄土色の飛沫が周囲を汚した。
「……美味い!」
噛めば噛むほどカレーとうどんが混ざり合い、更なる旨味の領地へと№H064を誘う。胃に送り込むのが惜しいほどに、此のカレーうどんはうまい。
「……気になって見に来るくらいなら名乗ればよいのに」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も。もしかして幻聴でも聞こえました? 精密検査をしますか」
「いや、いい。……あのさ、コレを作った人に伝えてほしい。とても懐かしくて美味しいカレーうどんをありがとう、って」
「…………。……はい」
「……!」
にんまり微笑む唇に付着したカレーをペロッと舐めとり、そっか。と漏らすと№H064は再びカレーうどんを啜った。
終
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あとがき
閲覧ありがとうございます。
誤字脱字ごめんなさい。
【Replicare】をダウンロード、またはウェブ上で遊んでくださりありがとうございます。お陰様で11月11日にダウンロード数を300達成することができました。ぞろ目なので印象強い思い出になります。少しでも暇潰しのお手伝いができたら幸いです。
20201113 柊木あめ