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地下都市100ダウンロード記念SS


【見捨てられた楽園】

 

 嘗ては楽園都市として栄えた地下都市は幾星霜の流れの中で命が絶え、岩盤をくりぬいた天井にプロジェクターが映し出す空は常に茜に染まっている。悠々と視界を横切る二羽の黒い鴉も偽物だ。沈みかけの夕日も、連なる山々も、草も、木も、花も、此処にある全てが紛い物の自然であると知ったのはいつの日か。

 

 明る赤紫が鮮やかな髪に薄紫の虹彩をもつカインは今日も独り、壊れた設備の修理にあたっていた。

 

「はぁ……。流石に俺だけだとキツイな。自分のメンテナンスもしないといけないし」

 

 明日は隣の都市に行って使えそうな部品を探してこよう。そう頭の隅で考えて道具を工具箱に仕舞う。重たい足を引き摺りながら向かうは久世が遺した研究施設。更に地下へ潜った先に在る代理母胎室には強化硝子で作られた大きな卵型の培養カプセルが無数存在し、其の中の1つだけが現在も稼働中だ。

 

「ただいま、アクリマ」

 

 其れには遥か昔に愛し合ったオリジナルのアクリマが眠っている。

 

「此処もあとどれくらい持つだろうか。君はずっと其処で眠ったままだけれど、俺は何度も君の複製と此処で過ごしてきた。どの君もすごく可愛くて魅力的で……久世さんの気まぐれで君の複製が男だった時もあってさ、一度だけ、俺は複製に君を重ねることなく好きになれたんだ。久世さんがその時の複製の複製を造ってくれたけれど、二度目は思うように接することができなかったんだ……」

 

 方掌で触れたカプセルはあたたかい。

 

「って、また同じ話をしているね。ごめんよ……。今の生活にもだいぶ慣れてきた筈なのに、昔がなつかしくてつい彼の事を思い出してしまうんだ。俺の所為で彼は――」

 

 涙を流して嘆くことができたなら此の胸の苦しみは癒えただろうか。

 

「……二度もアクリマを殺してしまった。それなのに何で俺だけが残される?」

 

 縋り付く手は振り払われることなくカプセルの表面をただ滑り落ちていく。其の儘膝から崩れ拳を握り下唇を噛みしめた。いつの日か天使様が言っていた。人間は死んだら肉体は朽ち果て土に還り、魂はタナトスによって冥界へと運ばれ生前の罪を裁かれ天国と地獄へ振り分けられるが極稀に魂の存在自体を消されてしまう者もいるだとか。

 

「ねぇ、アクリマ。君の魂は今どこに居るのかな? いつか再会できるかな? 俺は此処に居るよ。ずっと……此れからもずっと、此処に居る。君がのこして呉れた思い出と共に。俺の命が尽きるまで、ずっと……――」

 

 

   終

 

――――――――――

 

あとがき

 

 閲覧ありがとうございます。

 誤字脱字ごめんなさい。

 

 地下都市のダウンロード数が100を迎えた記念品になります。真エンドから数百年後くらいの話になります。遊んでくださりありがとうございます。

 

 ゲームをプレイしてもらったら分かると思うのですが、当ゲームは恋愛が成就する話ではないです。想いが恋であると気付き発展する前に崩れる感じです。

 

 原作の続きもこんな感じです。

 

20210109 柊木あめ